ホーム › 災害時の福祉支援とソーシャルワーカーの役割

災害時の福祉支援とソーシャルワーカーの役割

災害時の福祉支援活動を示すイラスト

日本は地震、台風、豪雨、火山噴火など、多くの自然災害に見舞われる国です。東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、令和元年東日本台風(2019年)など、大規模な災害が相次ぎ、その度に被災者の生活再建と地域の復興が大きな社会的課題となってきました。災害発生から復興に至る各段階において、ソーシャルワーカーは被災者の生活課題に寄り添い、包括的な支援を展開する重要な役割を担っています。本稿では、災害ソーシャルワークの理論と実践、災害時要配慮者への支援、そして災害に強い地域づくりについて解説します。

災害ソーシャルワークとは

災害と生活課題

災害は、住居の損壊、家族の離散、就業の中断、地域コミュニティの崩壊など、被災者の生活基盤そのものを破壊します。さらに、避難生活の長期化による心身の健康悪化、孤立、貧困の深刻化、DV(家庭内暴力)やアルコール依存の増加など、災害に起因するさまざまな二次的・三次的な生活課題が発生します。

災害ソーシャルワークとは、このような災害によって生じる多様な生活課題に対して、ソーシャルワークの専門的な知識と技術を用いて支援を行う実践です。個別の生活支援から地域の復興支援まで、ミクロ・メゾ・マクロの各レベルで包括的な支援を展開することが特徴です。

災害支援の時間的段階

段階 時期 主な支援内容
緊急期 発災直後~72時間 安否確認、避難誘導、要配慮者の保護
応急期 数日~数週間 避難所運営支援、生活物資の調整、相談対応
復旧期 数週間~数か月 仮設住宅入居支援、福祉サービスの再開・調整
復興期 数か月~数年 恒久住宅への移行支援、コミュニティの再建
平時(防災期) 災害前 防災計画への参画、要配慮者名簿の整備

災害時要配慮者への支援

災害時要配慮者とは、災害時に特に配慮を必要とする人々のことであり、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、外国人、難病患者などが含まれます。災害対策基本法の改正(2013年)により、市町村は「避難行動要支援者名簿」を作成することが義務づけられ、さらに2021年の改正では「個別避難計画」の作成が努力義務化されました。

福祉避難所の開設・運営

福祉避難所は、一般の避難所では生活が困難な要配慮者のために開設される避難施設です。特別養護老人ホーム、障害者支援施設、公共施設などが指定され、バリアフリー環境や介護・医療的ケアが提供されます。ソーシャルワーカーは、福祉避難所の開設・運営において、要配慮者のスクリーニング(振り分け)、生活支援の調整、専門職の配置などの重要な役割を担います。

災害関連死の防止

災害関連死とは、災害そのものではなく、避難生活の長期化や環境悪化に起因する死亡をいいます。東日本大震災では、震災関連死として認定された死者数は3,000人を超えており、熊本地震では直接死を上回る災害関連死が発生しました。ソーシャルワーカーは、避難所や仮設住宅での見守り活動、生活環境の改善、心身のケアの調整を通じて、災害関連死の防止に貢献しています。

DWAT(災害派遣福祉チーム)

DWAT(Disaster Welfare Assistance Team)は、大規模災害時に被災地に派遣される福祉専門職のチームです。厚生労働省の推進のもと、各都道府県でDWATの整備が進められています。

DWATのメンバーは、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、保育士、介護支援専門員などの福祉専門職で構成され、避難所における要配慮者のスクリーニング、相談支援、福祉サービスの調整、福祉避難所への移送支援などを行います。医療チーム(DMAT)が身体的な救命を担うのに対し、DWATは「生活を守る」支援を担うチームとして位置づけられています。

災害時の福祉支援は、単なる「物資の配布」ではありません。一人ひとりの被災者が抱える個別的な生活課題に寄り添い、その人らしい生活の再建を支えることこそが、ソーシャルワーカーに求められる災害支援の本質です。

被災者の心理的支援

災害による心理的影響

災害は、被災者に深刻な心理的影響を及ぼします。急性ストレス障害(ASD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、不安障害、アルコール依存の悪化など、災害に関連する精神的健康問題は多岐にわたります。また、悲嘆(グリーフ)への対応、子どものストレス反応への対応なども重要な課題です。

心理社会的支援(サイコソーシャルサポート)

ソーシャルワーカーは、被災者への心理社会的支援において重要な役割を果たします。心理社会的支援とは、心理的なケアと社会的な支援を統合的に行うアプローチであり、安全な環境の確保、基本的ニーズの充足、社会的つながりの回復、心理教育(ストレス反応の正常化)、専門的な治療への橋渡しなどを含みます。

ソーシャルワーカーは、精神保健の専門職(精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士など)と連携しながら、被災者の心理的回復を地域全体で支える仕組みづくりに取り組みます。

仮設住宅・復興住宅での支援

避難所生活の後、被災者は仮設住宅(応急仮設住宅やみなし仮設住宅)に移行し、やがて恒久的な住まいとしての復興公営住宅や自宅の再建へと移っていきます。この移行過程において、ソーシャルワーカーは以下のような支援を展開します。

  • 仮設住宅での見守り活動 — 孤立防止のための定期的な訪問、サロン活動の開催
  • 生活再建の相談支援 — 被災者生活再建支援金、義援金の申請支援、住宅再建の相談
  • コミュニティの再建 — 自治会の立ち上げ支援、住民同士の交流促進
  • 復興公営住宅への移行支援 — 新たなコミュニティへの適応支援、孤独死の予防

特に、復興公営住宅への移行後は、見知らぬ住民同士の新たなコミュニティ形成が課題となります。復興公営住宅における孤独死の問題は、阪神・淡路大震災後に大きな社会問題となり、以降の災害においてもコミュニティソーシャルワークの視点に立った支援の重要性が認識されています。

災害に強い地域づくり

平時の備え

災害ソーシャルワークは、災害が発生してから始まるものではありません。平時から地域の防災力を高め、災害に備える取り組みも重要な実践です。

  • 避難行動要支援者の把握 — 個別避難計画の策定への参画
  • 地域防災計画への参画 — 福祉の視点を防災計画に反映させる
  • 防災教育・訓練への関与 — 福祉施設や地域での防災訓練の企画・参加
  • 受援力の向上 — 外部からの支援を受け入れる体制の整備

地域の互助力の強化

災害時に最も早く機能するのは、地域の互助です。日頃からの住民同士のつながり、見守りネットワーク、自主防災組織の活動は、災害時の共助の基盤となります。コミュニティソーシャルワーカーが平時から築いてきた地域のネットワークは、災害時にこそその真価を発揮します。

今後の展望

気候変動の影響による自然災害の激甚化・頻発化が指摘される中、災害ソーシャルワークの重要性は今後ますます高まることが予想されます。日本社会福祉士会をはじめとする専門職団体のDWAT整備の取り組み、災害ソーシャルワークの教育・研修の充実、そして平時からの地域づくりとの連動が、今後の災害対応力の向上に不可欠です。すべてのソーシャルワーカーが災害への備えを自分ごととして捉え、日頃の実践の中に防災・減災の視点を組み込んでいくことが求められています。